平成13年(2001年)12月14日

北海道知事  堀 達也 様

 

                          日本クマネットワーク   
                      代表 岩手大学教授 青井俊樹

 

北海道における春グマ駆除(管理捕獲)再開に関する要望と提言の提出について

 

標記の件について、別紙のとおり提出しますので、よろしくお取りはからい下さい。北海道における野生生物の保護管理に係わる先進的な取り組みについては、全国的にも注目を集めているところです。本件についても、積極的にご検討いただけますよう、お願い申し上げます。

 

                      〒020-0401 岩手県盛岡市手代森16-27-1
                      アウトバック内 日本クマネットワーク事務局                                                                                TEL:019-696-4647 FAX:019-696-4678

 

 


平成13年(2001年)12月14日

北海道知事  堀 達也 様

 

                          日本クマネットワーク   
                      代表 岩手大学教授 青井俊樹

 

北海道における春グマ駆除(管理捕獲)再開に関する課題と提言について

 

北海道は、平成13年度に発生した死傷事故にともなって、渡島半島地域における春季の「管理捕獲」を有害鳥獣駆除の制度に基づいて、平成14年から実施することを検討していると聞いている。しかし、この決定について、日本クマネットワークでは深い懸念を有する。クマ類の保護管理では、人間にとって問題となる個体を生み出さないための予防策と、問題発生時における迅速な対応が重要であり、そのためには社会への普及啓発と危機管理のための社会的な仕組みの整備が最も重要となる。駆除による単なる個体数調整では、個体群の存続を危うくするばかりでなく、危険性や被害の防止にもつながらない恐れがある。

かつて実施されていた「春グマ駆除」においては、実質的に無秩序な狩猟の様相を呈し、地域によっては個体群の絶滅危惧状態を招いたことから、中止された経緯がある。春季に捕獲されるヒグマの胆嚢の高い金銭価値は、乱獲を招く重要な要因となっていた。日本における熊胆の流通のあり方については国際的にも強い批判があり、安易な春季の駆除の実施は、新たに価値の高い熊胆を問題のある流通市場に供給することになりかねない。そして、このことにより、北海道の野生動物保護管理政策が、改めて国際的な非難を浴びる恐れがある。

一方で、北海道が定めた「渡島半島地域ヒグマ保護管理計画」が目標としている事故・被害の防止とヒグマ個体群の存続を実現するためには、地域社会から一定の存在価値を認められる必要がある。駆除としての捕殺は、単にコストをかけてヒグマを邪魔者として排除するだけであり、将来に向けた展望を何も生み出さない。もし、個体数調整が必要であれば、科学的に管理された「狩猟」として実施するべきである。

以上の状況に鑑み、春季の捕獲の実施に向けた北海道の姿勢について、社会に対する説明は現時点で不充分であることから、春季捕獲の平成14年からの実施を北海道が再検討されるよう要請する。また、北海道が実施すべきヒグマの保護管理・危機管理対策について、以下のとおり提言する。

 

1) 春季の捕獲はさまざまな問題を包含しており、拙速な開始はとうてい認められない。実施を延期し、外部の専門家も含めた詳細かつ慎重な検討を行うべきである。

2) 北海道が定めた渡島半島地域ヒグマ保護管理計画では、「これまでの駆除を中心とした対策から、有害性の高いヒグマをつくり出さない予防的な対策を含めた総合的な対策に転換していく必要がある」と明確に方針を掲げている。そのために推進すべき課題が数多く上げられているにもかかわらず、それらの具体的な検討が進められていない状況で、検討項目の一つにすぎなかった春季の「管理捕獲」のみが唐突に進められる事態はまったく理解できない。特に最重要課題である危機管理やモニタリングなどの現地業務に当たる新組織と専門担当者の配置も同時に具体的な取り組みを開始しなければならない。捕殺によって個体数を多少減らしても、クマを誘引する廃棄物の問題や市民の意識を高める普及啓発など様々な課題に取り組み、かつ、危機管理にもあたる人的体制がなければ何ら問題の解決にならないことは、各地の経験から明らかである。

3) もし仮に、一定の個体数調整が被害防除に効果的であることが証明されるのであれば、「駆除」としてではなく、「狩猟」として行われるべきである。持続的な狩猟の実施によって生み出される利益がいくばくかでも地域に還元される仕組みできれば、地域社会の中でヒグマの存在への理解を進めることができる。その際、管理計画を法に基づく「特定鳥獣保護管理計画」に移行させ、適正な管理とモニタリングの体制を構築することも不可欠である。

 

* 以下、当ネットワークは「駆除」としての春季の「管理捕獲」を容認するものではないが、やむを得ず行うのであれば、その前提として、詳細かつ慎重な検討の元に実現されなければならない課題を以下に提示する。

 

4) 全域の個体群の状態を詳細にモニタリングする調査研究体制の拡充。

5) 熊胆の商取引を活性化させないための管理体制の確立。

6) 過剰な捕獲を避けるために全体の適正な捕獲上限のオスメス毎の設定。メスについては捕獲を厳しく抑制すること。

7) 地域的な捕獲集中と局地個体群の個別的抹殺の進行を避けるために、全体の捕獲枠をユニット毎に振り分け、それぞれオスメス毎の上限の設定を行うこと。

8) 親子連れの捕獲を明確に禁止すること。

9) 捕獲前に対象個体の性年齢階層・子の有無などを識別することが困難な「穴グマ狩り」は禁止すること。

10) 捕獲上限に達した際のすみやかな捕獲終了を担保するために、捕獲当日の迅速な報告を義務づけること。その際、性別・繁殖状況を確認可能な状態の毛皮の提示、及び、必要な標本の提出を義務づけること。

11) 上記6)〜7)を担保するために、管理当局から求められた際には2日以内に捕獲現場に管理官を案内することを狩猟者に義務づけること。

12) 親子連れの錯誤捕獲を避けるために、捕獲実施期間は4月上旬までとすること。また、捕獲上限管理と明確な区分のために、4月上旬までの「管理捕獲」とその後の里山や市街地近郊における通常の危機管理のための駆除を峻別する必要がある。両駆除の同時実施は認められない。管理捕獲期間中の里山・市街地周辺における危機管理については、管理捕獲の許可枠内で実施すること。

13) 管理捕獲の前提となる上記の体制を運用する予算的、人的体制を確保すること。

 

以上の提言について、北海道においては真摯に検討されることを熱望する。エゾシカ保護管理計画の実施などにより、北海道の実施する野生生物保護管理策には全国的に高い関心が集まっていることから、ここで不適切、不充分な形でのヒグマ春季捕獲を実施すれば、内外の専門家や研究者・自然保護団体などから批判を浴びるだけでなく、他の都府県におけるクマ類の保護管理対応にも悪い影響を与えることについて十分留意されることを期待する。


平成13年(2001年)12月17日

道庁記者クラブ
幹事社 様

                            日本クマネットワーク 
                            代表 岩手大学教授 青井俊樹

 

北海道に対する春グマ駆除(管理捕獲)再開に関する要望と提言の提出について

 当ネットワークは、クマに興味を持ち、各地域でクマ類の保護管理活動や普及啓蒙を行っている全国の市民や研究者などで組織する団体です。この度、北海道が検討している有害鳥獣駆除の制度に基づく渡島半島地域の春期のヒグマ「管理捕獲」について深い懸念を抱き、別紙のとおり北海道知事に対して要請と提言を提出しました。拙速な実施は、全国的に大きく禍根を残し、国際的な非難を浴びる恐れもあり、専門的見地から各種提言をとりまとめたものです。

 

 本件については、実施の可否について広く社会に問いかけることもなく進められようとしており、是非おとり上げいただきたくお願い申し上げます。

 

 代 表 青井 俊樹
〒020-8550 盛岡市上田3丁目18-8
岩手大学農学部農林環境科学科森林科学講座
Tel&Fax:019-621-6136

事務局 〒020-0401 岩手県盛岡市手代森16-27-1
      アウトバック内 日本クマネットワーク事務局
      TEL:019-696-4647 FAX:019-696-4678

本件に関する担当
日本クマネットワーク北海道地区委員
山中正実
職場 TEL:01522-3-3131 FAX:01522-2-2040

                                         以上、お知らせします。


gif. 日本クマネットワーク