威嚇弾によるクマの追い払い法


 北海道斜里町役場自然保護係長の山中正実氏から、ヒグマの追い払いに使用されている威嚇弾の、詳しいレポートが届きましたので、以下にご紹介いたします。威嚇弾の輸入代理店に問い合わせたところ、他県では猿害対策にも利用されているそうです。

注意事項

 ここで紹介する威嚇弾は、昨年視察した米国のモンタナ州でも、グリズリーベアの追い払い法として広く使われています。ただし、日本では極限られた地域でしか利用されておらず、また一般化していません。もともとは暴動鎮圧用に開発されたものなので、殺傷能力は低く(至近距離ではかなり危険)、野生動物を殺傷せずに追い払うのに、その効果が期待されます。

 ただし、この威嚇弾を一般の方は利用できません。銃砲所持許可を持ち、正規の手続きを経て実包を購入し、さらに有害鳥獣駆除の特別の権限と許可を持ったハンターでなければ利用できません。詳しく知りたい方は、銃砲所持許可については地元の警察署、もしくは公安委員会にお尋ねください。有害鳥獣駆除については、地元の猟友会にお尋ねください。
 写真 
 右が花火弾の実包(空)。左がゴム弾の実包(空)と弾頭(左下)。100円硬貨と大きさを比較してください。



「威嚇弾を使ったヒグマ追い払い法」

                         斜里町自然保護係 

                       係長・研究員 山中正実

 

 

 威嚇弾には、ゴム弾と花火弾の2種があります。ゴム弾は弾頭が硬質ゴム製の弾で、クマの体に直接当てて追い払います。花火弾は、飛んでいった弾が大音響と光を発して爆発します。爆竹やロケット花火などより、強力かつ正確に威嚇することが可能です。

 当方では、まず、ゴム弾を当て、逃げるクマの後に花火弾をあびせかけるというやり方で追い払っています。ゴム弾は、有効射程が30〜40m程で、これ以上離れると命中精度が悪くて使えません。花火弾は、70〜80m程も飛び、これは直接当てなくても近くに着弾させれば効果は十分ですので距離が遠くても使えます。また、直接姿が見えなくても、クマが潜んでいる薮の中に適当にぶち込めば効果十分です。現場に出動しても既に近くの山林内などに逃げ込んで、姿が見えないことが多く、また、ゴム弾の有効射程まで近づくのが難しいことも多いので、当方ではゴム弾よりも花火弾の方を多用しています。つまり、効果的な追い払いのためには、どちらか一方ではなく両方の弾を購入する必要があります。  

 購入には、有害鳥獣駆除の許可と、弾の購入許可(普通は、有駆の許可が下りれば、無許可譲り渡し許可が猟友会事務局で発行されるはず)が必要です。特殊な弾ですが、使用開始時点で北海道北見方面公安委員会と道庁の方で協議してくれまして、ゴム弾・花火弾ともに至近距離で撃った場合、殺傷能力があるということで、普通の鉛弾と同じ扱いでよいということになりました。

 

威嚇弾発射用の銃について

 12番のポンプアクションのショットガン、スラッグ銃身付がよい。ポンプアクションが良い理由は、セミオートだとほとんどのタイプは火薬のガス圧を利用して、次弾が装填される。火薬量が少ないゴム弾や花火弾の場合、ガスのパワーが小さくて、次弾が装填されません。レバーを動かしていちいち空のカートリッジを排出しなければなりません。万一クマが反撃してきた際に備えて(これまでそういうことは皆無ですが・・・)、次弾に実弾を装填している場合、不便です。

 また、散弾用の絞り付きの銃身の場合、ゴム弾などがちゃんと飛ぶかどうか不安があります(やったことはないが・・・)。したがって、平筒のスラッグ銃身のショットガンをおすすめします。


 ゴム弾・花火弾による追い払い・忌避学習付けの利点

1:効果的に行われた場合、問題の場所からクマを排除できる。

2:たとえ行動域を大きく変えることができなくても、行動パターンを変えうる。

(夜型の行動にしたり、人を避けさせる)

3:離れたところから対象個体へ強力な刺激を送り込むことができる。

4:弾倉への装填の仕方によって、物理的刺激と音響的刺激のコンビネーションで使用可能。

5:ゴム弾は、他の物体投射型の手法に比べて、命中精度が高く射程も長い。

6:花火弾の場合、相手の姿が見えなくとも、おおよその位置がわかれば、その近くに強い音響刺激を送り込みうる。

7:銃の所持許可と有害駆除の許可さえあれば、ハンターが普通に所持している12Gのショットガンで発射できる。したがって市販の実弾も装填可能であり、威嚇弾との組み合わせによるバックアップも可能。

8:銃さえあればすぐに対応可能であり、奥山放獣のようにオリの運搬・設置、生捕り作業などよけいな手間がかからない。

 

 威嚇弾による忌避学習付けを効果的に行うために

1:強度に人慣れ、または、人為的食物に条件付けされた後では効果が上がらない場合がある。問題行動がエスカレートする前の、初期段階で使用すると効果が大きい。

2:追い払うだけではなく、対象個体が執着している誘引物(特にゴミなど人為的食物資源)を除去する必要がある。

3:極度に攻撃的な行動を示す個体には、安全を最優先させる場合、別の手法を検討すべき。

 

 使用上の注意

 花火弾

●発射者と対象個体の間に着弾させるべき。対象個体の向こう側に着弾すると、驚いて発射者の方に来るかもしれない(射程に習熟の必要)。

●開けたところで使用した方がよい。木の幹や岩や固い地面に当ててはならない。不発になる場合あり(射程に習熟の必要、混んだ2次林などに撃ち込んでも、たいてい爆発するが、まともに木の幹に当たると、最後の爆発が起こらない場合がある)。

●乾ききった気候で、可燃性の高いものがある場所に撃ち込むと火災の危険性がある。


 ゴム弾

●クマを負傷させないように、20m以内で撃ってはならない。また、的が大きく筋肉が厚い後半身をねらうべき。

 共 通

●自動銃や絞り付きの銃身で撃ってはならない。

●万一に備えて、実弾装填の別の銃を持った人間がバックアップ可能な体制を取るか、弾倉後部に実弾も装填しておく方がよい。安全な場所から発射することも望ましい。

 

 その他

 犬の使用が効果的です。ただし、ちゃんとクマを追跡して、吠えかかることができる犬。クマの出没現場に出動しても、現場に姿が見えず、近く(花火弾の射程内)にクマがいるかどうかわからないことも多いですが、その際、犬を放てば、自ら追跡して追い払ってくれます。

 当方では、威嚇弾と併用することも多いです。例えば、まず、ゴム弾を当て、逃げるクマの後に花火弾をあびせかけ、さらに、すかさず犬を放って追いかけさせ、そこに出てくると恐い目にあうということを学習させます。

 

威嚇弾の発注先は下記の通りです。公費での注文にも対応してくれます。

三進小銃器製作所
東京都荒川区東日暮里5-20-6
TEL: 03-3806-6234 FAX: 03-3891-3600



[問い合わせ先]

斜里町自然保護係 
係長・研究員 山中正実
〒099-4192 斜里郡斜里町本町12 斜里町自然保護係
TEL: 01522-3-3131(ext.124) FAX: 01522-2-2040