第8回 クマを語る集いIN仙台

8月26日・27日に宮城県仙台市の(財)婦人会館にて、第8回クマを語る集いIN仙台(主催:クマを語る集い実行委員会)が開催されました。26日は奥多摩ツキノワグマ研究グループのリーダーで、茨城県立自然博物館学芸員の山崎晃司氏から『クマに関する教材の開発と紹介』と、北海道自然環境課野生生物係の小野 理氏から『ヒグマ保護管理対応の基本的考え方について』、元宮城県川崎町有害鳥獣駆除隊の佐藤善幸氏からは『猟師として、いかにクマを残すか』、宮城県川崎町の酪農家・小峯 誠氏からは『クマによる飼料作物被害をどう考えるか』、岩手県ツキノワグマ研究会&有限会社アウトバックの藤村正樹からは『北米で注目されている先進的クマ対策のプログラム』(カレリアン・ベアドッグを利用したクマ対策プログラム)の紹介とビデオの上映がありました。27日は狩猟文化研究所代表の田口洋美氏が『現代のマタギ』と題した基調講演と、我妻正実氏(ツキノワグマと棲処の森を守る会)から「クマの畑」の発表、パネルディスカッションがありました。

 
山崎晃司氏はAAM(アメリカ博物館協会)と米国連邦政府によるグランツにより、ロスアンゼルス郡立自然史博物館の職員との共同プロジェクトとして、日本では初めてのクマを題材とした教材パック”とランクキット”を考案・作製しました。このトランクキットは、学校などにそのまま貸し出すか、あるいは必要に応じてスタッフが一緒にレクチャーに出向くというスタイルのものです。内容はツキノワグマについての正しい生物学的知識と、不用意な遭遇を回避するための情報を伝えることが中心で、毛皮、各種頭骨、食物サンプルなどの実物標本、文献、ビデオ、パソコンソフト、ビデオ、調査機材、クマ避けグッズ等々が、学習の進め方のヒントやファクトシート等と一緒にトランクに詰められています。「総合的な学習時間」で活用してもらうことも、ターゲットに置いているそうです。既に数カ所の小学校で、このトランクキットを使用して実験的に「クマの学習・ディベート」を行ったそうですが、良い評価を得られました。さらに改良を加え、今年の秋から貸出を開始するとのことです。

 北海道は「ヒグマ保護管理計画」を今年発表しました。そのヒグマ保護管理計画に直接関わった小野 理氏からは、北海道支庁主催ヒグマ対策町村担当者会議等でヒグマ出没町村の行政担当者に配付する資料を用いて、ヒグマの出没や被害発生についてどのように対応するべきか、また、問題グマの判定はどのようにするべきかなどについて発表がありました。

 宮城県では箱罠(田中式檻)を用いて有害鳥獣駆除で捕獲したクマを、鉄の棒で刺し殺すという残酷な方法を行っています(銃を用いて、有害鳥獣駆除で捕獲したクマを殺しても良いと、最近になって宮城県は通達を出しました)。箱罠を用いたクマの捕獲や鉄棒で突き刺す処分の仕方などに疑問を持ち続けていた佐藤善幸氏は、自分の土地を「ツキノワグマと棲処の森を守る会」(宮城県仙台市)に提供し、クマによるデントコーン被害を防ぐ目的の「クマに食べさせるためのデントコーン畑作り」を数年前からはじめました。前例がないユニークなこの試みはマスコミによって全国ネットで紹介され、大変注目を浴びていますが、そのいきさつや現状報告、箱罠使用がクマの生息数に悪影響を与える危惧について等の発表がありました。ただし、そのような取り組みや発言をしする佐藤氏に対して、地元川崎町猟友会の態度は冷たく、「逆に私が猟友会から駆除されてしまった」とのことでした。現在は佐藤氏の活動や考えに賛同するハンターと、地元猟友会とは別のグループを作って活動しているとのことです。

 クマによる被害者でもある酪農家の小峯 誠氏からは、デントコーン畑(デントコーンは家畜に食べさせるトウモロコシ)1反から約700 キロの収穫量がある。クマによってデントコーンが食害を受けた場合、減少した分をキロあたり約40円の配合飼料を購入しなくてはならず、酪農家にとって負担が大きい。乳価も100円/Kgから80円/Kgまで下がった上に、クマの被害で酪農家はさらに負担が増えている現状の発表がありました。ただし、小峯氏はクマに対してとても理解を持った方で、猟友会の取り組みには批判的な、数少ない酪農家でした。

 岩手県ツキノワグマ研究会事務局の藤村正樹(有限会社アウトバック代表取締役)は、今年6月に米国モンタナ州で視察してきた、「
WIND RIVER BEAR INSTITUTE」とモンタナ州野生動物保護局がグレイシャー国立公園地域で行っている、カレリアン・ベアドッグを利用したグリズリーベアの追い払い法のビデオ上映と、「WIND RIVER BEAR INSTITUTE」の創設者・キャリーハント博士が考案・実践し、北米で大変評価を受けているクマの保護管理(人とクマとの軋轢を防ぐ)プログラムの紹介を行いました。

 ブナ林と狩人の会(マタギサミット)の幹事でもある田口洋美氏は、古代から現代までの日本列島における狩猟史を通して、農耕と狩猟(有害鳥獣駆除)の相互依存の歴史的関係や、マタギと呼ばれる集団がどのように変化していったかについて説明されました。

 最後に宮城県蔵王町在住の我妻正実氏(ツキノワグマと棲処の森を守る会)から、川崎町の佐藤善幸氏と彼のグループと協力して行っている「クマの畑」についての報告があり、最後に全体討論を兼ねたパネルディスカッションが行われました。


有限会社アウトバック