『第10回ブナ林と狩人の会 マタギサミットin朝日』

 平成11年6月19日~20日に山形県朝日村湯殿山ホテルにおいて、『第10回ブナ林と狩人の会 マタギサミットin朝日』(主催/マタギサミットin朝日実行委員会、後援/朝日村、朝日村観光協会、田麦俣観光協会、協力/狩猟文化研究所)が開催され、新潟県(湯之谷・山熊田・朝日村・村上市/三面・)、秋田県(阿仁町)、山形県(小国町・温海町・朝日村)、岩手県(大槌町/金沢)、長野県(栄村/秋山郷、山ノ内町/湯ノ原)内のマタギ関係者を中心に約150人が参加した。今年のテーマとして、各地で深刻な社会問題になっている「猿害」対策が取り上げられた。
 19日には猿害対策のスペシャリスト・高木直樹氏(獣害対策研究所代表)が、「猿害の実態と対策について」と題して講演を行った。20日は早朝に湯殿山参詣をした後、田口洋美氏(狩猟文化研究所代表)の講演・「シベリアの少数民族の狩猟について」と、パネルディスカッション・「里山の動物たちとマタギ」、全体討論・「ブナ林と狩人の会について」が行われ、月山宣言・「21世紀のマタギについて」が満場一致で採択された。





  月山宣言


 =前文=

 『ブナ林と狩人の会 マタギサミット』は、1990年3月に第1回目の会を新潟県村上市(三面集落移転地)で開催して以来、本年で10周年を迎えることができました。この会は、私たち伝統狩猟集落の有志が一同に会し、来るべき21世紀へ向けての山村生活の持続と伝統狩猟の継承を目的とし、山村の相互交流、情報交換の場として開催してきたものです。山村という大きな枠組みでは会そのものを開くにも現実味が無く、伝統狩猟集落を中心に声を掛け合ってきました。

 =本文=

 今日、私達の暮らす山村は危機的状況にあります。昭和40年代から50年代にかけては、山村の過疎化が叫ばれておりましたが、現在では過疎化ではなく、廃村という危機が現実味をおびてまいりました。

 さらに、森林環境の保全、野生生物の多様性に関する問題など私達の日常生活を取り巻く問題が山積されております。私達は狩猟や山菜などの採集、林業、農業、養蜂業、地域の観光サービス業、河川漁業、土木建設業などに携わりながら、山でのささやか生活を守り続けてまいりました。一方、山岳登山案内や遭難救助にも従事し、一般の登山客の安全にも積極的に取り組んでまいりました。私達は山の力によって生かされてきたのです。山は、私達の血であり肉体そのものと言っても決して過言ではありません。また、山の痛みを少なからず日常の中で感じ続けてまいりました。

 しかし、現状のままでは、永年に渡って培われてきた私達の経験と知識、技術、そして何よりも山に生きる喜び、ささやかな幸福は次世代に受け継がれることなく、消えていくことになりかねません。かといって、このような問題について真剣に議論もされぬままに時が過ぎ、私達の村と生活の具体的な未来像は見えぬままです。今、私達は共に語り合わねばなりません。誰に頼るではなく、村と生活、そして幸福心に守り得るのは私達自身であり、同じ境遇にある山に生きてきた仲間であると考えます。私達は、広く山村に暮らす者同士が、互いの胸元を開き合い、村の将来と存続のための知恵を絞りあう場が必要であると考え、この会への参加を呼びかける者です。

 私達は、意見を同じくする者だけではなく、むしろ意見を異にする人々の声に積極的に耳を傾けたい、と考えております。また、これまでの会も、そのような方針のもとに進めてまいりました。

 『ブナ林と狩人の会 マタギサミット』は、運動団体ではありません。共に山村に暮らす者同士が、交流し、将来について考え合う場です。

 この会は、山村間の横のつながりをつくりだし、互いが励まし合って、新しい時代の山村のあり方を模索する場です。

 
ケモノを盛らせ・ヒトを盛らせ・山を盛らせたい。それが私たちの願いです。

『第10回 ブナ林と狩人の会 マタギサミット』

1999年 6月20日

 

 

pict.

月山宣言を読み上げる山形県朝日村猟友会会長の前田喜清氏

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