なぜヒグマが人を襲ったのか、その理由と原因

 平成13年4月、4月に北海道内では3件のヒグマによる死亡事故が発生しています。その内の2件では、人を襲ったとみられるヒグマが2頭射殺されました。これらの不幸な事故がなぜ起きたのか、その原因と理由について、平成13年5月11日付け北海道新聞の記事及び社説で詳しく掲載されています。新聞報道でクマの事故原因について、研究者に取材し、科学的立場での正しい検証を掲載することは北米では当たり前のことです。しかし、日本のマスコミでそれを行うところは多くありません。今回の北海道新聞の報道内容は高く評価できます。


2001/05/11  北海道新聞
『クマ 広がる行動域』(記事),『ヒグマの襲撃・回避に知恵を絞ろう』(社説)

 5月10日に日高管内門別町で発生した、ヒグマによる死亡事故に関連した記事と社説が、5月11日付け北海道新聞に掲載になった。
 それによると、ヒグマによる死亡事故が同じ年に3件も発生したのは、1976年以来25年ぶりとのことである。道によると、北海道内に生息するヒグマは2千から3千頭。ヒグマによる人身事故は1989年以降、計25件発生し、このうち7人が死亡、19人が重軽傷を負っている。研究者らは「ヒグマは通常、人を襲わない」と指摘し、ヒグマが人を襲うケースを次のように説明する。

 
(1) 至近距離で人とクマとが遭遇し、クマは驚いて襲う場合がある。
 (2) 雌グマが子グマを連れていたときに、子グマを守るために襲う場合がある。
 (3) ヒグマが食べかけている「獲物」が近くにある状況で、誤って人がその「獲物」に接近した場合。
 (4) 傷を負い追われている場合。
 (5) 生ゴミなどの味を覚えた問題グマが人を襲う場合。
注1

 4月18日に
白糠町で起きた、山菜採りに山に入った婦人がヒグマの襲われた事故は、親子グマによる「不意の遭遇」事故と見られる。被害者は同行者と離れ山菜採りをしていて、クマ避け鈴などのクマ避けを備えていなかった。山菜採りの好適地は、ヒグマの春の餌場でもあり、ヒグマに遭遇する可能性が高い。
 5月6日に
札幌市定山渓で起きた、山菜採りの男性が死亡した事故は、生ゴミなどに餌付いた「問題グマ型」の事故と見られる。不用意に捨てられた生ゴミは、クマを人間のゴミや食料に餌付かせ、人間への関心を高める「問題グマ」を作る原因となる。事故の起きた現場付近は、ゴミが目立ち、事故前にも人をつけ回したクマがいたとの情報もあるそうだ。
 5月10日に門別町で起きた、駆除活動中に死亡したハンター(男性、81歳)の事故は、駆除活動に従事するハンターの高齢化と、猟友会に頼る自治体の現状が指摘される。
注2

 ヒグマの出没や人との遭遇の背景には、クマの行動の変化もあると記事では指摘している。道では1966年から続いていた春グマの予察駆除を、生息数の減少などを理由に1990年に中止した。それによって、人の存在を恐れない「新世代グマ」が増えていると研究者は考えている。また、森林の荒廃もあって、人里近くへクマの行動域が拡大した可能性がある。
 新聞記事に中で、ヒグマの専門家2人のコメントが紹介されている。

山中正実氏(網走管内斜里町役場自然保護課係長)
「人間側の注意でほとんどの事故は防げる。行政としても情報を収集・分析し住民、観光客に提供する努力が欠かせない。」
注3

間野 勉氏(北海道自然環境研究センター・野生動物科長)
「『問題グマ』を生み出す、ゴミのポイ捨てに危機意識を持って欲しい。」と呼びかけている。

さらに、網走管内斜里町の知床自然センターが制作した
『ヒグマ対応マニュアル』から、主な事故防止策をまとめ、記事の中で紹介している。事故の検証と事故を防止するための対策を合わせて載せているので、この記事は読者にとても有益な情報源となっている。北海道新聞で紹介されていた事故防止策は次の通りである。

事故防止策
避けるには:複数で入林する。鳴り物(鈴、ホイッスル、ラジオなど)を身に付け、川や風の音がある場所では大きな音を出し、人の存在を知らせる。クマが餌付いているシカの死体などには近づかない。土に(シカの死体が)埋められていることがあるので臭いにも注意する。

出くわしたら:慌てずゆっくり後退する。走って逃げるのは攻撃を誘発するので禁物。クマが立ち上がるのは、偵察目的のことが多い。ゆっくり両腕を挙げて振り、穏やかに話しかける。人に気付が、多くの場合クマは立ち去る。

接近したら:好奇心や威嚇行動の場合が多い。相手を偵察しつつ、ゆっくり後退する。数メートル以内ならクマ撃退スプレーが有効。
 それでも近寄ってくる場合には、倒れ込んで両足を抱え込むように体を丸め、両手を首の後ろに組んで首をガードし、動かない
 ごくまれだが、人間を追跡するなど異常な行動のクマが接近したときは、あらゆる方法で抵抗する。
 最も重要なことは、
不意の遭遇を避けることだ。出くわしてしまうと、安全確実な対処法はない



【アウトバック注釈】
1.手負いにされたクマはが非常に危険だということは、昔からマタギやハンターでは常識です。また、傷を受けていなくても、人や犬、車で追われているクマは、逃げまどう途中で遭遇した人を傷つける事例が、過去にたくさんあります。人などに追われているクマの心理状況も十分考慮する必要があります。

2.狩猟者の高齢化は全国的に問題となっている。伝統的な狩猟者集団のマタギ達でさえも、毎年開催されているマタギサミットで「高齢化」の問題が恒に話し合われている。日本ではほとんど全ての都道府県の自治体は、野生動物を保護管理するための業務(被害防除、有害鳥獣駆除、狩猟者の取り締まり、野生鳥獣の保護、調査活動の応援など)を猟友会組織に依存している。狩猟者の高齢化と狩猟者人口の減少がこのまま進むと、現状のままでは日本の鳥獣保護行政は成り立たなくなってしまう。

3.年間180万人の観光客が訪れる知床国立公園の斜里町では、毎年数百件のヒグマの目撃情報が寄せられている。専任の対策員(レンジャー)を配置し、威嚇弾や轟音玉、クマ追い犬の利用、クマ対策フードロッカーのキャンプ場への設置、クマ保護管理策の視察を北米で実施など、日本では最も先進的な取り組みを斜里町は行っている。



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