新刊『小国マタギ 共生の民俗知』

佐藤宏之・編
農文協・発行
定価2,800円(本体2,667円)
ISBN4-540-03145-7

  

『小国マタギ 共生の民俗知』

「今日自然環境の保全・保護の必要性が声高に叫ばれているにもかかわらず、自然環境と密接に関わって暮らしてきた山村の人々の生活は疲弊し、全国的に画一な消費経済を基調とする都市生活の仕組みが隅々まで張り巡らされ、これに絡め取られることによって、従来の山村の生活は、まさに崩壊の瀬戸際にあると言える。自然環境の保全・保護の最大の担い手であるはずの山村が、なぜ崩壊させられようとしているのか。自然との共生を背伸びすることなく生活の中に溶け込ませてきた民族の知恵が、なぜ否定されなければならないのかといった疑問が、研究を始める、そして本書を編むことになった出発点であった。」(序章より抜粋)と、編者の佐藤宏之氏は述べられています。

本書ではマタギの集落が現存する山形県置賜郡小国町をフィールドに、考古学や自然地理学、民俗学、史学、動物生態学、地理学、森林資源学、文化人類学など様々な角度から地球規模の時間的な変位や気象、地形、歴史、経済、文化等を通して、マタギ文化の成立とその変遷や現在の小国の現状および将来のクマ猟などについて詳しい解明を試みた内容となっています。

朝日連峰と飯豊連峰の山懐に抱かれる山形県小国町は、少なくとも400年の歴史をもつマタギの里です。そこでは、狩猟者が主体となって春季のクマ猟(予察駆除)と生息状況調査が長年継続的に実施されており、野生動物資源としてのツキノワグマの持続的利用が、伝統的な狩猟文化と山村地域の地域文化の継承と一体となって行われております。そのことについては、本書の第3部「野生動物資源と環境」の中で詳しく触れられております。

「狩猟」や「クマ猟」「春季予察駆除」「熊胆の利用」を批判することは簡単ですが、その歴史的・経済的な背景や実状、意義などを知らずに語ることはいかがなものでありましょうか。

日本固有の伝統的な文化との視点と、国際自然保護連合のジェフリー・マクニーリー氏がその著書「経済と生物学的多様性」(日本語版・日本環境協会刊)の中で述べられている「持続可能な開発」としての山村の振興との視点から、本書を通して我が国の狩猟と狩猟文化、マタギ、クマ猟について再考されてみてはいかがでしょうか。

なお、本書は平成12年〜14年度にかけて、(財)日産科学振興財団の研究助成を受けて行われた課題研究「東北マタギの伝統的狩猟活動から見た動物資源の持続的利用に関する学術研究」(研究代表者:佐藤宏之東京大学 助教授)の成果をまとめたもので、佐藤宏之氏(東京大学大学院人文社会系研究科 助教授/考古学)・佐々木史郎氏(国立民俗学博物館 教授/文化人類学)・田口洋美氏(狩猟文化研究所 代表/地理学・文化人類学・民俗学)・中川重年氏(神奈川県自然環境保全センター 専門研究員/里山林の保全・森林資源)・羽澄俊裕氏(株式会社野生動物保護管理事務所 代表取締役/動物生態学・野生動物管理学)・長谷川裕彦氏(明治大学文学部 非常勤講師/自然地理学)・村上一馬氏(宮城県公立高校教諭/近世狩猟史)・藤村正樹(有限会社アウトバック 代表取締役/クマ被害防除策)など15名の様々な分野の専門家が研究に参加し、本書の執筆も担当しています。


●『小国マタギ 共生の民俗知』は有限会社アウトバックでも販売いたします(限定サービス/送料無料)。
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index
執筆者一覧




【index 】(執筆者名/敬称略) ※『小国マタギ 共生の民俗知』(農文協)より引用。

序章  佐藤宏之

第1部 自然と人

第1章 小国盆地周辺の山地地形  長谷川裕彦

    1.小国の地質と山地地形
    2.小国の地形環境
    3.小起伏山地の地形
    4.大起伏山地の地形
    5.小国盆地および流域河川の河岸段丘
    6.生活の舞台としての小国の地形

コラム1 山の気象  梅本 享
コラム2 杉林と積雪  西城 潔

第2章 小国盆地に見られる植生利用とその変遷
    〜北小国の三集落を中心に〜  中川重年

    1.山村小国町の概観
    2.北小国三集落の土地利用
    3.山地の利用と変遷
    4.集落にみる土地利用の変遷

コラム3 ブナ林にみる土地利用の変遷  牧田 肇

第2部 歴史的景観

第3章 小国山間部の近世村落〜その景観と暮らし〜  原田信男

    1.山村史の問題
    2.村落の前提
    3.中世村落の存在形態
    4.近世村落の成立と景観
    5.近世村落の山仕事と生活

コラム4 毛皮交易と世界システム  佐々木史郎
コラム5 小国町の木地師  東條幸太郎

第3部 野生動物資源と環境

第4章 伝統的クマ猟は持続的に継続することが可能か
    〜山形県小国町の春季マヤギ猟の場合  花井正光・田口洋美・栗城幸介

    1.クマの生息状況調査
    2.生息状況と春季クマ猟の推移
    3.地域個体群に及ぼす捕獲の影響と持続的資源利用

コラム6 野生動物調査の現状  羽澄俊裕
コラム7 東北地方のツキノワグマ被害  藤村正樹

第4部 環境と人の交渉史

第5章 小国マタギの過去と現在  田口洋美

    1.小国マタギの過去
    2.小国マタギの現在
    3.狩猟の技術的適応
    4.抑止力としての狩猟の再評価

コラム8 いつから猟師は鉄砲を使っていたのか
     〜江戸時代の漁師鉄砲について〜  村上一馬
コラム9 江戸時代にクマの肝はいくらだったのか  村上一馬

第5部 総論

第6章 共生の民俗知 〜持続的利用の技術知〜  佐藤宏之

    1.里山の文化生態
    2.共生知とは何か
    3.開かれたシステムとしての民族知
    4.動物資源の持続的利用
    5.おわりに 〜環境論のオリエンタリズム批判


【執筆者一覧】(五十音順)  ※『小国マタギ 共生の民俗知』(農文協)より引用。

●梅本 亨/理学博士/明治大学文学部史学地理学科教授(専門分野:気象学、自然地理学)
      主な著書/『日本の気候景観』(共著)古今書院、『やさしい情報処理論』(共著)有斐閣

●栗城幸介/理学博士/山形県職員(生物学専攻)

●西城 潔/理学博士/宮城教育大学教育学部助教授(専門分野:自然地理学)
      主な著書/『景観分析保護のための地生態学入門』(共著)古今書院、『日本からみた世界の諸地域ー世界地史概説ー』(共著)大明堂

●佐々木史郎/学術博士/国立民俗学博物館教授(専門分野:文化人類学)
      主な著書/『北方から来た交易民ー絹と毛皮のサルタン貿易』日本放送出版協会、『モンゴロイド系諸民族の初期映像記録ーしべりあ・樺太・北海道編』(共著)国際日本文化研究センター

●佐藤宏之/博士(文学)/東京大学大学院人文社会系研究科助教授(専門分野:考古学)
      主な著書/『日本旧石器文化の構造と進化』柏書房、『ロシア狩猟文化史』(編著)慶友社、『北方狩猟民の民族考古学』北海道出版企画センター

●田口洋美//狩猟文化研究所代表(現東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程在籍)(専門分野:地理学、文化人類学、民俗学)
      主な著書/
『越後三面山人記ーマタギの自然観に学ぶ』農文協、『マタギー森の狩人の記録』慶友社、『縄文式生活構造』(共著)同成社、『ロシア狩猟文化誌』(共著)慶友社、『縄文社会論(下)』(共著)同成社

●東條幸太郎/文京ふるさと歴史館学芸員(専門分野:日本近世史)

●中川重年/神奈川県自然環境保全センター専門研究員(専門分野:里山林の保全、森林資源)

●羽澄俊裕/株式会社野生動物保護管理事務所代表取締役(専門分野:動物生態学、野生動物管理学)
      主な著書/『冬眠する哺乳類』(共著)東京大学出版会

●長谷川信男/博士(史学)/明治大学文学部非常勤講師(専門分野:自然地理学)
      主な著書/『地生態学入門』(共著)古今書院、『世界の山々』(共著)古今書院

●花井正光/文化庁主任文化財調査官(専門分野:動物生態学)
      主な著書/『南の島を旅する』岩波書店、『追われゆくけものたち』(共著)築地書館、『動物と文明』(共著)朝倉書店

●原田信男/博士(史学)/国士舘大学21世紀アジア学部教授、放送大学客員教授(専門分野:日本文化論、日本生活文化史)
      主な著書/『江戸の料理史』中央公論社、『歴史の中の米と肉』平凡社、『木の実とハンバーガー』日本放送出版協会、『中世村落の景観と生活』思文館、『小シーボルト蝦夷見聞記』(共著)平凡社

●藤村正樹/有限会社アウトバック代表取締役(専門分野:クマ被害防除策)
      主な著書/『森の動物の100不思議』(共著)社団法人日本林業技術協会

●牧田 肇/理学博士/弘前大学農学部生命科学部教授(専門分野:植物地理学、環境科学)
      主な著書/
『白神の意味』(共著)自湧社

●村上一馬/理学博士/上越教育大学大学院修士課程修了/宮城県公立高校教諭(専門分野:近世狩猟史)
      主な著書/「山熊田の熊狩りと熊祭りーすべての男が加わり、すべての女が除かれるー」『別冊東北学』6号 作品社、「近世における熊狩りー猟師鉄砲の使用と秋田マタギの特異性ー」『上越社会学』17 上越教育大学社会教育学会


関連リンク
・小国町の五味沢マタギを紹介するウェブページ 
http://www2r.biglobe.ne.jp/~yama-san/00matagi01.html

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